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W e l c o m e !

VIVA MICHIHICO MIGUMI                    

WEB MUSEUM                

Atelier Snow_Drop

Illustrator & Poet

 

 







 

 








世界の静かな中心であれ

     
+      少年るろう王白あざみ (白鳥皇子タケル) 
  ちんじゅの森の水鏡

     2016年の正月元旦より、ヒルトン東京地下1階にて開催してきました『吐くは千年、吸うは一日』展は2017年正月元旦
     をもって無事終了することができました。この間、唐の詩人・李賀を主題とした絵や駄文を発表してきました。

     が、李賀は遠く、中国という大国が辿って来た足跡はあまりにも複雑で、かつ難解であり、隣国だというのになんだかや
     っぱり味気なく、わたしの “旅” はすでに頓挫しかかっている。2017年も、不可視の刺客と呼ばれたこの男を追い求め続
     けるか・・・ それとも、手放すか・・・

     かろうじて血肉になった李賀の骸を斜めにかぶり、どこか古い森の中にあるという鏡の如き湖を眺めてみたい。


     ジャメ・ヴュ = jamais vu(未視感)!
 

     書き割りのような見慣れた風景をいま過ぎて、惑いながらもゆらゆらと、静かな古鏡に点在しているであろう斑な中心へ
     むかって浮き泳ぐ。
                                                    2017年01月11日

 

 

 



                

オロチの剣よりもすぐれた十握剣(とつかのつるぎ)を十指の爪へ秘めた白鳥皇子タケルの生
まれかわり・・・白あざみ・・・。少年るろう王の心臓は、まるであの日の大災害にぽつんと
残った鎮守の森のどんぐりのように、荒れはてた現代の曠野にあって、今日も、いまだ、波打
っている。世界の静かな中心であれ、と。

はたして、通信事業の反映はほんとうに幸せであろうか。

かつて照日の天つ神が八百万である山川の神々を一掃したように、なにかがうち滅ぼされていくようでならない。

綺羅としたエレキの光にひかれゆく蛾々の気持ちがわからないでもないが、なにごともボタン
ひとつで管理できる社会が既にそこまでやってきている。しかし、遠くは太古のエッジから現
代へと辷りおちてきた「少年るろう王白あざみ」は、映画『シザーハンズ』のエドワードのご
とく自身の身体を十握剣でズタズタに自傷しつづけながらも、眼には見えない神の家々を尋ね
歩く。ジャメ・ヴュ = jamais vu(未視感)! それがなんになるか解らないが・・・







   白 あ ざ み、 断 章


    序詞

タケルはきょうも お陵(はか)のまわりをまわっています
まっかな血しおを たぎらせながら

   ぐるぐる ぐるぐる    
   ぐるぐる ぐるぐる

世界のしずかなまんなかで じぶんのお陵をいつまでも 
ぐるぐる ぐるぐる まわっています





    1

    

高校生だったころ、鈴鹿サーキットでよくアルバイトをした。そんなとき、ちょっと遠回りし
て帰るのが楽しみだった。ヤマトタケルのお墓がある加佐登神社でぼんやり過ごしたり、神社
の裏手にあるお墓(白鳥陵)のてっぺんへ登って横になったり天を仰いだり、おっぱいのよう
な形をした円墳のまわりを目的もなくぐるぐると歩いた。

父との葛藤や奈良への望郷・・・。あるいは、白鳥となって飛んでいった行き先とは・・・。
加佐登神社のご神体であるタケルの笠や杖はいったいどのようなヘルメットでどのような剣で
あったのか・・・。なぜ伊吹山の鬼退治のとき草薙剣をみやず姫のもとへ置いていったのか・
・・。タケルの脚はどれほど三重に曲がって病んでいたのか・・・。そんなことばかりを考え
ていたが、いま思えばすべて自分自身への事柄だったようでならない。

わたしが生まれた故郷は、旧三重県三重村大字三重とよばれたところで、足が三重にも八重に
も曲がってもうダメだと観念したタケルの幻影がそこここに見え隠れするところだった。そん
なこともあってか、死して哀しくも勲しい未完の白鳥物語は、アマノジャクだった少年のここ
ろをたえず逆撫する虚無感があった。その虚無にくわえて、強い情念をも感じさせるタケルの
物語はたとえコンピューターをもってしても、今後これ以上は溶けだすことはないであろう。
しかし、幼いころから小さな手でギュッと握りしめてきたタケルの断片は、折れてバラバラに
なったナルシルの刃がふたたび鍛えなおされてアンドゥリルの剣となったように、この世から
おき忘れ去られる年齢に達したいま、少しづつ光りだす。





    2

    

陽はすっかり沈んでしまったが、目的地へはまだ着けそうもない。急がば回れという戒めをわ
すれ、近道しなければと思ってこの山道を選んだ。ところが先へいけば行くほど真っ暗になっ
て、さっきからもうずいぶん走ってきたのに対向車にはまだ一度も出会っていない。心細くな
ったが、オートバイはわたしなんかよりよほど利口に造られていて、行くべきところへ行こう
としていた。エンジンは狼のようにガオガオと唸り、気化器は生きもののような息づかいをし
ながらクスクスと笑い歌っている。耳をすませば楽しくなって、アクセルをまた元気いっぱい
に開いた・・・

あれは遠いむかしだったろうか。

生駒山の上から大阪の夜景を眺めたことがある。ひろびろした地平線いっぱいに点在する街の
明かりが色とりどりな糸で織られた魔法の絨毯のように美しく輝いていた。それはまるで、夜
にみる夢の中の青空をいつもぬりつぶしてしまう満天の星々のようであって、煌めきはこの世
とあの世を往き迷うわたし自身の nega がぬっと現れでたかのようなザワメキをもって光って
いた。

空に浮くものが堕天使のように焼かれながらこの地上へ落ちなければならなかったとき、イカ
ロスの眼に映った自身の影の明るさとは、ざっとそのような黒さであったろうか。





    3

    
異国の野に赤いケシ畑があると聞く
フランダースの草原で満開になった赤いケシの花
戦争で死んでいった兵士たちの血の色なんだ
「ぼくらはこの地上に生きていた」と
雨が 雪が 風が知っている
人々からは忘れさられたケシの花だったが
いのちの種は闇から光へとのびて
長く冷たい夜の眠りから目を覚ます
殻を砕き 花を咲かせる

雲が 霧が 虹が知っていた
そのことを 一匹の蛇が知っていた

蛇は自分のちいさな甲冑(うろこ)を脱ぎすてて
すっくと立ち上がりながら
赤い花々に挨拶をする
「ぼくの恋人よ」と
すると花々が
眼には見えぬものごとを悟り知る者よ
花々は「イェイツ」と蛇に渾名して
フランダースの草原にて三つの星を指し示す
朽ちて 果てて 蘇れ と





    4

    
その男Mは黒い学生服の第一ボタンをいつも外していた。ワザとではない。胸板が厚すぎたの
と、学生服のサイズが人並みであったからなんだ。したがって、両腕は鳥が空を飛ぶかのごと
くにハの字の格好をしながらも、両の拳はしっかりと握られていて、いつでもひとりぼっちで
歩いていた。

学園の校庭の隅には小川が流れていた。その小川にそって、巨人兵のように背の高いポプラの
樹がずらっと並んでいて、Mはその樹の下をよく歩いていた。三つほど先輩だったから、わた
しがやっと高校生になったとき、Mの姿を見つけることはできなかった。

その後わたしはデザインの勉強のために上京し、やがて、デザイナーとなった。最初に務めた
会社は四谷本塩町自衛隊正門前の眼前にあったが、その日は朝からヘリコプターの音がうるさ
くてならなかった。それでも仕事に追われながら一日はどうにか終わったが、翌朝、朝刊をみ
てびっくりした。全面黒々としている新聞に、作家三島由紀夫とともに先輩Mの名前が刷られ
てあって、割腹自殺したという文字が踊っていた。

ワッ! 世界の静かなド真中であれ・・・しばらくして、わたしはその会社を辞めた。