POETRY DIARY
これらの詩はゴシック建築の構造システムに似て

バラ窓のゴシック



 青バラ

パリ

地下鉄

階段





セェ クゥール!な
女の子

のような
青い制服を着た
バラ窓の
女子高校生が

表参道

地下鉄

階段





交番

裏手で

スカートをたくし上げ
白い
ソックス

踝まで下げ
細い
長い
きれいな
脚を
ズンッと見せた

まくれ
ほぐれ
ずらし
くずれ
ちぐはぐな
身体

さらけ
だす

そして

オモチャ
みたい

チャチな大人

のめのめ

待って
いた



 
黒い鷲

青い


普通



鷲は




一筋に
飛ぶ

だが

ひとたび
空が
荒れる

キリキリ
もみくちゃに
され
ジグ
ザグ

飛ぶ

嵐の


鷲を
わたしは
わたし

感性

しっかり
見とどけなくては
なら
ない



尖頭

串刺しに
され
そうな
黒い



力は
生きることに

する
から



 
晴れたり曇ったり

生きる
てことは
まるで
お天気予報みたい

晴れたり
曇ったり

雨だと聞かされても
晴れだったり
晴れだと聞かされても
雨だったり

愛してる
て云ってくれたのに
すっぽかされたり
いやな人が
いい人だったり
いい人のはずが
いけずだったり

まァ!

生きる
てことは
まるで
お天気予報だ

明日のことは
わからない
だから
けせらせら
なるようになれ

けれど
屋根にしっかり
釘を打ち
大きな石を
置いておこう

そして
猫の額のその庭の
土を耕し
たねを蒔こう

毎日の
毎日の
積重ね

一枚が
二枚の
二枚が
三枚の

番町皿屋敷
の皿のように

三枚が
四枚の
四枚が
五枚の

毎日を
積重ねようよ

生きる
てことは
あてのならない
お天気予報

だから
毎日の
積重ね

五枚が
六枚の
六枚が
七枚の

七枚が
八枚の
八枚が
九枚のって

おっと
とッ!

番町皿屋敷の
お菊さんは
積重ねの果て
死んじゃった

はて?
なんの話だっけ



 
孤独法師

円環の
合間
合間に描く
自分の
絵は
とても
時間が
かかっている

「下手クソ!」と
そのことに
ついて
嫌悪感が
ないわけでは
ない が

ダダダダ
ダッと
手っとり早く
畳込むより
いまは
そのことがらが
大切だから

一筆
一筆
なにかを捨てて
なにかを拾う

紙に
じかに
接触をしない
時でも
恋人を慕うように
慕う

その体験から
不可解な
自分を
守ってくれる
なにかを
まのあたりに
したいから

ゆっくりと
丁寧に
そして
大胆に
描ければいい

そう願うのも
時が経つにつれ
描く力を
失い
描く絵姿を
失わぬため

わたしの
時間は
もう
それほどには
残って
いないけど

円環の
合間
合間を縫い
パーにならないため
ゆっくりと
あらゆる時間の
襞を
楽しむ



 


新宿裏通り
雨の中
白い割烹着を着て
編の目の
買い物カゴをかかえ
下駄の先っぽに
名前は知らぬが
雨覆いのカヴァーをつけ
黒きコウモリで
いそいそと
いそいそとゆく
痩せても
枯れても
なかなかの
美麗な
オバはん

土踏まずへ
隙間をあけて
しみじみと
しみじみとゆく
ゆくが
どこへゆくか
雨の中

さぞや昔の
美しき
足のさばき
われを誘いて
雨が
水打つ石の上
音を捨て
ときに
おぼつかなく
不協を奏で
流れゆく
艶っぽさ

その
人口石の
石畳

ひとつぶ
ひとつぶの
粗い
小さな
穴の
水溜まりへ
万華の
すがた
匂い映して
一人歩きの
美麗な
オバはん
黒きコウモリ

うきたたせ



 
雨の犬

今日も
昨日とおなじ
雨の中

三日もつづけば
トムの
『RAIN DOG』を
聞きたくなる


 ラムを
 浴びるように飲んで
 眠りの精を
 追い払え
 雨の犬たちと
 つるんでね
 破滅の行列に
 くわわるんだ
 オレの傘なんて
 雨の犬たちへ
 くれてやる
 だってオレも
 雨の犬
 だから


雨の犬って
濡れねずみになった


事じゃないんだ

雨の犬って
ドシャ降りの雨の中
ションベンの匂いを
消され
方向感覚を失い
帰れなくなった犬の
ことさ

そこで 
彼らは
野犬収集車の
やっかいと
なる

だが
街をうろつく
迷い犬は
後をたたず
どの


家へは帰れず
家へは帰らず



 
時の流れ

モスグリーンのフレームワーク
ドラゴンのレイヤー
チェス盤のレイヤー
王の椅子のレイヤー
王のレイヤー
雲のレイヤー

この絵を描いていて
ふと
思いあたることが
あった

ながい間
コンピューターで描いてきたが
それが
あんがいムダではなかった!

この絵を描いていて
そう思った

束縛されるのがイヤになって
下書きをしていない分
不思議にそう思う
やっていることは
リハビリテーションのころに描いていた
手順や手法と
あまり変わらないのだが
妙に
そんなことを強く思う

ラフ案はあるが
次の一手
次の一手と考えて
空間のバランスをとってゆく
綱渡りの軽業師のような
あるいは
オートバイに跨がった時のような
緊張感!

支持体の紙は
融通のきかないディスプレィだが
これが存外によくって
この向きあい方
この順序立て
けっこう自分に合っているようで
案外ここちよく
楽しいのだ

あたりまえのことだが
人生なに一つ
ムダはないんだ

いつものシブ面は
“遠回りや怠け”を肴にワインを飲んで
ちょっとだけニンマリする
そして
そんな自分が現在(いま)
自分の傍にいてくれている
それが嬉しいのだ

つぎのレイヤーは
城をめざし
オートバイに跨がってブッ飛ばす
白鳥王子のレイヤーを
左端中央へと重ねる
この絵は
それで
おしまい



 
チャツランガ遊戯

とらんぷ

地図

わたしの
こころを
釣り
あげる

力の
国を
釣ろうか

アホの
国を
釣ろうか

恋人の
国を
釣ろうか

国は
あるような
ないような

言語の


記号で
あそぼう

生は
死を
死は
生を
もたらして
むすびあわせ
つきはなす

きれいは汚い
きたないは奇麗

だから
なにも
期待せず

楽しもうよ
見いだそうよ

とらんぷ

地図

読手しだいで
走りだす


すこしだけ
こちらを
向いて
無になって
考えず
閉ざされた
感性を
チャツランガ(チャトランガ)遊戯

釣りあげて
みようよ
そして
楽しもう

硬く
閉ざされた
感性を
ちいさな目印
ちいさな出来事

開いてみて
自分



見つけようよ

それが


日常(ルール)だから



 
バラ窓のゴシック

あっは!
また置いてゆくのかい
これで
二度目だよ
せめて
夢でなりとも
おまえさん

息を
おくれ

八〇〇歳になる
ゴスロリ

眠り姫

奪って
奪ってよ

黒い
破れの
網タイツ
姿で
悪ぶり
白い肌に
バラ窓

瞳を
輝かせ
ふわりふわ

宙空に
浮く

未来
永劫
ここへ
引き寄せる
底知れぬ
術を
心得た
おまえさん
ねえ
かよわせてよ
ねえったら
かよわせておくれよ
おまえさん・・・
おまえさんの
あまやかな息を
あたしに
おくれ

  * * *

無表情な


眠り姫

無機質な
身体

眠り姫

ゴシック

ロリータ

眠り姫

視力7.0

眠り姫

バラ窓

瞳孔





あたりだけ
妙に
輝いて
いて


頭蓋



飾りアーチ
には
睫毛ほど

細い鉄製

貞操帯

ような
枠が
ぴたり

嵌まっていた

  * * *

ねえったら
鍵を
おくれよ
息を
おくれ
ボタンや
凹を
せり上げ
触れ
合唱しょうよ
離れていた
二つのものが
出合うのだから
ねえ
かよわせてよ
嘘っぱちは
もう
つかないから
いじわるは
しない

うそいつわりのない力
ひたすらに
迫りきて
耳打ちをする

遠いむこうから
わざわざやってきた
ゴシック

ロリータ

眠り姫

底知れぬ
永劫

ふふ! 

中世中期へ
俺は
みちびかれ
曳きずられ
踏み越えても
みたいな

バラ窓

鍵穴へ


兜に隠しておいた
合鍵で
鍵を解き
細い
瞼毛のような
鉄製

Tの字

ノブを握って
飾りアーチ

唐草

紋様



あたりの


開いた

あっは!
あっは!

ペダル式機械
ミシン



蝙蝠傘翅翼
天蓋



寝台



ゴスロリ

眠り姫

合唱
すれば
八〇〇年もの
あいだ
眠っていた
と云う
古い
パイプオルガン

弁は開いて
高く
低く
全身
全霊で
鳴きひびく

あっは!
あっは!

なんどでも

あっは!
あっは!



 
鎖骨(フライング・パットレス)

コン!
コン!
コン!

「風邪ですわ」

告白する
君が胸

ゴチックの
フライング・パットレス*

ように
鎖骨はゆるみ

街へ
流星群は
意図せずに
流る


*フライング・パットレスとは、円天井(ヴォールト)から生じる外への水平力を支えるために外壁に架け渡されたアーチ状の飛び梁(控え壁)のことである。円天井の推力はフライング・パットレスを流れて地盤へと伝達されてゆく。
この卓越した構造はゴシック建築のもっとも独創的な部分であり、これによって、建物はまるで針葉樹の森と化す。ここでのわが詩編は、黒子のようなフライング・パットレスへ捧げる詩編だ。







                
               
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